【随筆】兄が実家を出る

 自分には三つ上の兄がいます。この兄はいつも頼れて笑わせてくれる"theお兄ちゃん"といった感じの人です。小学生の頃、家族でちょっと高いホテルバイキングに行った際に、自分は緊張してしまい、焼く必要のある生肉を間違えて皿に載っけてしまったことがありました。自分はその失敗にどうしようもなく情けなくなり動けなくなってしまいました。その時に代わりに「間違えて載せてしまったので焼いてくれますか?」と聞いてくれたのが兄でした(マジで助かりました)。

 そんな兄なんですが今から三年前、結婚して実家を出て行く日がありました。その前日の夜の出来事です。
 自分は特に気にせずに寝ようとベッドに入っていました。あまり家にはおらずいつも友達と遊んでいるような兄だったので、「まあこれからも会うだろうしあまり変わらないか」という気持ちでいました。が、どうにも寝れません。急に寂しくなってきたのです。まあそれもそうかと起き上がり、今までの感謝の手紙を書くことにしました。
 今までお世話になったこと、尊敬していること、これからのこと、かなり時間をかけてどうしたら感謝を伝えられるだろうと何度も書き直しました。書き終えた頃には明け方になっていました。読み返して、ちゃんと伝わるだろうかと確認しました。その時の感想としては、「形にはなっているけど、少し嘘っぽいな」でした。せっかく書いたから渡したい…。けどこれを渡すのは本望じゃない。だけど他に感謝を伝えられるものなんてなあ…。そんな中で一つの案を思いつきました。
 絵本をあげることでした。大切な人が出来た際に渡そうと思っていた本が家にあったのです。その本は「GUESS HOW MUCH I LOVE YOU(邦題:どんなにきみがすきだかあててごらん)」というタイトルで、小さなうさぎが大きなうさぎにどれだけ好きかを言い、大きなうさぎもそれより大きな愛を小さなうさぎに伝えるという物語のものです。
 当日の朝になり、家を出て行く少し前に兄を呼び、本を贈ることを伝えました。この本は洋書のため、自分が読み聞かせのような形で訳して内容を理解してもらってから渡すことにしました。
 読み聞かせを始めてまもなく、どちらからともなく二人とも泣いていました。色んな方法で何度も小さなうさぎが好きを伝えて、その度に大きなうさぎがそれを超えて愛を伝える。その繰り返しを読むと自分は何故か泣けてきていて、その側にいる兄も泣いていました。兄の泣く姿を直視することはできませんでしたが、自分の想いがちゃんと伝わったんだなと感じて安心しました。

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